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一級建築士事務所 Eee works

Column コラム

『住まいを考える』シリーズ家づくりのはじめに

2026-10-18

図面の精度と『美しさ』の正体 Column444

一本の芯を回しながら

図面の精度と『美しさ』の正体

手書きの図面について、もう一つ記憶に残っていることがあります。

建築学科に入って最初の一歩は、名作住宅の図面をトレースすることから始まります。

出題する側の意図は、名作と呼ばれる空間の寸法や外部との関係、空間のつながりを

手で写し取ることで、身体を通して何かを感じ取って欲しい、ということだったはずです。

 

■「0.5mmのB」一本で描き分ける身体技法

しかし、当時の学生たち(もちろん私自身も含めて)はまず『美しい図面』を描くことに躍起になりました。

線の引き方という身体の技術がまだ伴っていないため、0.3mmや0.5mmなど複数のシャープペンシルを持ち替え、あるいは芯の濃さ(HやBなど)をいくつも変えて、

道具側に頼って、線の強弱、太さを変えようとします。

しかし、かつての修行時代、プロの設計現場で教え込まれた作法は、全く違いました。

事務所によって流儀はあると思いますが、私の場合は、

『0.5mmのB』のシャープペンシル、たった一本だけ。

その一本のみで、図面の中に表現する全ての線を描き分けます。

用いられたのは、『回し引き』と呼ばれる手法です。

これで、芯の先を描きながら細く尖った状態を保ちながら描いていきます。

線の太さは、ペンを立てるか寝かせるか、芯のどの角を紙に当てるかという指先の

繊細な角度でコントロールする。

筆圧は常に一定で、強すぎず。細い線もしっかりと描き付けるように引いていきます。

一枚の図面を完成させるまでには、すでに引いた線の上を並行定規や手が何度も行き来します。

筆圧が弱すぎれば、線は擦れてぼやけ、逆に強すぎれば、紙を痛めます。

決まった縮尺(スケール)の中で、必要な内容を表現するため、1mmの幅の中に

0.5mmのペンで何本も線を引き分けなければならない場面もあります。

線同士が、重ならず、擦れず、独立していること。それが必要な条件でした。

 

■「美しさ」は目的ではなく、結果である

なぜそこまで緻密な精度が必要なのか。

図面を美術品のように綺麗に見せるためではありません。

現場で大工や、職人が図面を広げたとき、どこが構造躯体で、どこが仕上げの見切りなのかが一目で、正確に読み取れるようにするためです。

現場での迷いや誤解を生まないために、制度にこだわった線を引く。

その結果として、線一本一本が正確に読み取れ、全体のレイアウトが引き締まり、

後から『美しい図面』という佇まいが立ち現れてくるだけなのです。

 

■トレペの上に残る、設計者の原点

CADで図面を描くようになった現在もエスキスや詳細図のスケッチを書くときは

今でも、無意識に『回し引き』をしていることがあります。

道具がデジタルに移り変わっても、『現場に正確な意思を伝えるために、一本の線に責任を持つ』

という姿勢の原点は、あの一本の芯先を削りながら引いたトレペの上にあります。

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